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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和43年(わ)65号 判決

被告人 浦田智弘 福田正弘

主文

被告人両名をそれぞれ懲役三年に処する。

但し、被告人両名に対し、いずれもこの裁判確定の日から四年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人浦田智弘の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人両名は

第一、昭和四三年四月一六日午前一時過頃、直方市殿町の軽食喫茶店「ブルドツク」前路上に駐車中のツードアー軽四輪乗用車の後部座席にA子(当二一才)及びB子(当一七才)の両女が乗車しているのを認めるや、被告人浦田において突然右車の運転席に乗り込み、その意を解した被告人福田もこれに呼応して直ちにその助手席に乗り込み、ここにおいて被告人両名共謀のうえ、右車を発進させ、同女らが下車を求めて哀願するのを無視して、同所より二五粁離れた鞍手郡鞍手町永谷山林内の赤間・直方線県道脇まで約一時間にわたり疾走させ、その間両女らをして右車からの脱出を不可能ならしめ、もつて不法に監禁し、

第二、前記疾走中の同車内において、両女を適当な場所に連行したうえ強姦しようと共謀し、同日午前二時過頃、前記県道脇の空地に右車を停車させた後、深夜一時間にも亘り車内に監禁されて引き廻され、しかも人通りもと絶えた山中に連行されて著しく畏怖困惑している両女に対し、「降りて来い」と数回語気鋭く申し向け、もしこの要求に応じなければ両女の身体に対し如何なる危害を加えるかも知れない気勢を示して脅迫し、両女の反抗を著しく困難ならしめ、

よつて両女を下車させたうえ、

(一)、被告人浦田において、A子を同所附近の農作小屋に連れ込み、その場に寝るよう命じて寝かせ、同女の身体に乗りかかり強いて同女を姦淫し、

(二)、被告人福田において、B子を右空地の草むらに押し倒してその上に乗りかかり、強いて同女を姦淫したが、その際同女に対し全治七日間を要する処女膜裂傷を与え

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人らの判示第一の各所為は刑法二二〇条一項、六〇条に、判示第二の(一)の所為は同法一七七条前段、六〇条に、同(二)の所為は同法一八一条、一七七条前段、六〇条に各該当するが、右判示第一の各監禁の行為は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから、同法五四条一項前段、一〇条により犯情の重いB子に対する駐禁罪の刑で処断することとし、判示第二の(二)の強姦致傷の罪の刑については所定刑中有期懲役刑を選択し、右の各罪は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い強姦致傷罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人両名をそれぞれ懲役三年に処するが、諸般の情状に鑑み同法二五条一項を適用し、いずれの被告人についても各裁判確定の日から四年間右各刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については刑事訴訟法一八一条本文を適用して被告人浦田に負担させることとする。

(弁護人吉永晋二雄の公訴棄却の主張に対する判断)

被告人浦田の右弁護人は、同被告人が被害者A子を姦淫していた際、相被告人福田は、右A子の被害場所とは異る場所において被害者B子を姦淫していたのであり、右両姦淫の地点は、直線距離にすれば三〇米弱ではあるが、その間に数米の崖があり雑木、雑草が密生し、被告人両名が相互に連絡し合うためには迂回路をとらねばならず、その距離は一〇〇米余りも存するのであるから、被害者たる両女が被告人ら双方の状態・位置を覚知しうる範囲にあるとはいえないし、まして被告人両名が相互に助勢し合いうる程度の近接範囲にあつたものともいえず、従つてかかる位置・状況からして、A子に対する被告人らの本件姦淫行為については、被告人福田がその犯行現場にいたものではないから刑法一八〇条二項にいう「現場に於て共同して」なした場合に該当しないものであるところ、被告人浦田の単純強姦の被害者A子はその被害につき一旦なした告訴を本件公訴提起前取消しているので、親告罪であるA子に対する強姦の点は告訴を欠ぎ訴訟条件を欠缺するから公訴棄却さるべき旨主張する。

よつて、前掲各証拠に照し、判示第二の犯行に至る経緯をみるに、被告人らは、深夜の午前一時直方市の繁華街において被害者らが乗車し、停車しているツードアーの前掲自動車の運転席及び助手席にいきなり乗り込んで、直ちに発車させ、走行中の車内において両女を強姦することを共謀し、下車を求めて哀願するのを聞き入れず、犯行場所を物色しつつ約一時間に亘り農村地帯、公園あるいは山間部を二五粁も走行したうえ、両側は山林に囲まれ深夜で傍を走行する車両もなく、人里離れた前記県道脇の空地に自動車を乗り入れ、同所において姦淫しようと停車したうえ、被告人浦田はその傍に立ち、被告人福田において、右車のドアを開き、不安におびえて抱き合つている両女に対し、「降りて来い」と三回に亘り語気鋭く申し向け、両女が身の危険を感じ著しく困惑畏怖して下車するや、被告人福田は同所においてB子を、被告人浦田は同所から直線距離にして二五米、歩行可能な経路を通れば一〇〇米の地点にある農作小屋においてA子を、それぞれ強いて姦淫したことが認められる。以上認定のような本件犯行に至る経緯・態様、殊に犯行の時と場所が深夜人里離れた山間部であり、しかも被告人らが同所を犯行場所に選択したこと、更にその時点における両女の極度の畏怖困惑の状態等に鑑みれば、被告人らが右空地において下車し、両女を強いて姦淫しようと自動車のドアを開き両女に対し下車するよう語気鋭く申し向けた行為は、直接的な姦淫行為の一部を構成するものではないけれども、なお該行為に極めて密着接近した行為であつて、犯意がその遂行的行為により確定的に認められる段階に達したものとして、この時点において既に両女に対する強姦の実行の著手があつたものと認めるのが相当である。ところで、刑法一八〇条二項にいわゆる「現場に於て共同して犯したる」場合とは、強姦の実行行為の一部において右「現場」たる要件を具備していれば足り、必ずしもその実行行為の全部につき、二人以上の者が同時に現場にいることを要しないものと解すべきところ、叙上の如く本件においては右県道脇の空地において、被告人らが相並んで両女に下車を命じたものであるから、A子に対する強姦についても既に右時点において、同条項所定の現場共同性を充足しているものといわなければならないから、右弁護人の主張は失当である。

のみならず、被告人浦田がA子を強姦した農作小屋は、被告人福田がB子を強姦した空地から歩行可能な経路を辿れば一〇〇米の隔りがあり、両者の間には竹の密生した急斜面があつて直接見透しのきかない状況にあることは相違ないけれども、刑法一八〇条二項にいわゆる「現場」たるに相当する範囲は周囲の状況と相対的なものであつて、本件においては、深夜人里遠く離れた山中で人の助けを求める術もなく、両女にとつては二五粁も連行された未知の場所であつて、被告人らに連れ帰つてもらう外に帰ることも覚束無い状況にあつたし、右の両地点は直線距離にすれば、僅か二五米で相呼応しうる間隔にすぎず、現に被告人浦田も被害者A子も当時B子が被告人福田から姦淫される悲鳴を聞知してその動静を察知していたことが認められ、また一〇〇米の迂回路を通つても所要時間は極めて短時間であること等に徴すれば、A子に対する被告人浦田の犯行について、被告人福田もまたその力たりうべき範囲内にあつて両名とも何人かに知覚し得べき範囲内にあつたものと認めるのが相当で、その集団的・暴力的犯行態様は蔽うべくもないから、本件の直接的姦淫行為の実行地点から観ても、なお、被告人浦田のA子に対する強姦行為は刑法一八〇条二項にいわゆる現場共同の要件を充足しているものと解される。従つて、いずれにしても右弁護人のこの点に関する公訴棄却の主張は採用することができない。

よつて、主文のとおり判断する。

(裁判官 中村荘十郎 油田弘佑 川本隆)

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